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夏の滴

ホラー
ISBN:4048733095 桐生祐狩 / 角川書店(→角川ホラー文庫

幕開けは、子供たちの夏休みのひとこま。東京に引っ越した仲間を訪ねて、子供だけで急行列車に乗ろうとする場面だ。

……そんな冒頭のシーンからは想像できないくらいにヒドい話である。確実に「バトル・ロワイアル」よりも不健全かつ鬼畜きわまりない話であり、よく選考委員が賞を与えたものだと思う。というか、モラルを説いた人が賞を与えるべき作品ではない。

といっても、特殊なモラルを提示しているわけではない。なにしろ、世の中ではこの話に近いできごとも実際に起きている。むしろ、「それを言っちゃオシマイだろう」ということを堂々と言ってしまった作品である。特に、身障者や差別をめぐる部分はその色合いが濃い。

ふと連想したのはロス・マクドナルド。といっても内容が似ているわけではなく、『さむけ』あたりに描かれる人間関係が少し本書の人間関係にダブって見えた程度。

ちなみに、ネタからはラリイ・ニーヴンとかハリイ・ハリスンのSFを思い出してしまった。というか、最近ならば超自然要素を含まない作品としても書けなくはない領域である。

地下室の箱

ホラー
ISBN:4594031463ジャック・ケッチャム / 扶桑社ミステリー

 「私は、この本から生きる勇気をもらいました」なんて帯のついてる本はなんとなく嫌いだ。「全米を感動の渦に」とか「癒し」とかも同様。どこかうさんくささを感じてしまう。
 そんなの読むくらいならやっぱりケッチャムでしょう。……と思って手にとったのがこの本。

 妻子ある男と関係を持ち、妊娠したサラは、お腹の子を中絶するために産科の医師をたずねる。しかしその途上、彼女は謎の男女に捕われて、地下室に監禁されてしまったのだ。男女の目的は何か? 虐待を受けるサラの運命は……? という内容である。

 拉致/監禁/虐待。そう、これはまぎれもなく天下の鬼畜本『隣の家の少女』と同系の作品だ。あの作品の後味の悪さは半端じゃなかった。でも、この本は違う。逆境の中で、人格崩壊を起こしかけながらも力強さを見せるヒロインの姿は前向きだ。
 読後感も実にポジティヴな鬼畜小説である。私は、この本から生きる勇気をもらいました。……うーん、まずい徴候だなあ。

 ちなみに、サラを監禁する男が抱くいびつな信仰心もさることながら、男がサラに語る『組織』をめぐる陰謀めいた話も、一部のアメリカ人が抱くオブセッションを象徴しているかのようだ。この『組織』をめぐる物語がサラを内面から束縛してしまうという展開は、理不尽な世界になんらかの解釈を与えてくれる「物語」というものの危険な魅力を表している。

X雨

ホラー
X雨 沙藤一樹 / 角川ホラー文庫

 少年たちのX-lay / X-Rain。

 ある晴れた朝、小学生の「私」の前に現れた少年は、なぜかレインコートを着ていた。右目が潰れたその少年は、自分には感じられるという「X雨」のことを「私」に語るのだった。

 たくらみに満ちた物語である。

 ダーク・ファンタジー調の前半、主役は4人の小学生。彼/彼女たち4人だけが、なぜかX雨を感知できるようになってしまった。最初は雨音が聞こえるだけ、しかしやがて雨は目に見え、実際に体をぬらすようになる。だから、たとえ他人から奇異のまなざしを向けられても、彼らはコートを着て傘をさす。そして、彼らは雨以外のものも感知するようになるのだが……。

 4人の関係には微妙なエロティシズムが漂い、世間から孤立する彼らの人間関係は次第に凄惨さを増してくる。いささか陳腐な小道具も出てくるが、しかし甘く見てはいけない。それらは陳腐であることを考慮した上で配置されている。

 中盤の悪夢のようなねじれを経て、後半では前半のファンタジーがじわじわと変容する。その手法はさながら謎解きミステリ。謎解きの手法が前面に出すぎていて、構成にはややぎくしゃくしたところがあるけれど、そのよじれ具合がこの物語にはマッチしている。

 なお、あとがきは決して先に読んではならない。

 読後、あわてて前作『プルトニウムと半月』も読んだ次第。いやはや、こんな作家を見逃していたとは。

ドラキュラ戦記

ホラー

吸血鬼が闊歩する、豪華な戦争活劇小説

ドラキュラ戦記キム・ニューマン / 創元推理文庫

時は1918年、第一次大戦のさなか。撃墜王・リヒトホーフェン率いるドイツ吸血鬼戦闘航空団が、西部戦線の空を血に染める。ドイツ航空団の拠点マランボワ城を探る指令を受けた英国情報部員は西部戦線へと向かう。

 一方、祖国アメリカを捨て、吸血鬼として生き続けるエドガー・ポオもまた、ドイツ皇帝のある依頼を受けてマランボワに向かう……。

19世紀末の大英帝国にドラキュラが君臨するという『ドラキュラ紀元』の続編。

ドイツ航空団の秘密兵器は、吸血鬼ものならではの怪奇趣味に満ちている。なにしろドイツ軍の上層部にいるのは、カリガリ博士やマブゼ博士といった「悪の科学者」なのだ(そういえば、リヒトホーフェンの二人の従僕って、20年代のドイツで「吸血鬼」の異名をとった実在の連続殺人者だ)。

そう、この作品の最大の特色は多彩な登場人物にある。リヒトホーフェン、マタ・ハリ、チャーチルといった実在の人物はもとより、さまざまな文芸作品や映画の作中人物が何人も登場する。ドイツの悪の科学者を筆頭に、前線で奇怪な人体実験を重ねるドクター・モローと助手のハーバート・ウェストやら、負傷して下半身付随になってしまうチャタレイさん、はてはフィリップ・マーロウの生みの親、レイモンド・チャンドラーまで顔を出す。

最も印象に残るのが、クライマックスで重要な役割を演じる、ある人物の存在だ。本当はこれを書きたかったのではないかと思えるほどで、著者がいかに吸血鬼好きかがうかがえる。

巻末には前作同様、膨大な登場人物事典が付いている。作中にでてくる人名のほぼすべてを網羅している。なにしろ、脇役にいたるまでほとんどすべての登場人物が実在、または原作つきなのだ。

 この事典、訳者が作ったようだが、もしかしたら翻訳よりも大変だったんじゃないだろうか。

ゼウス -人類最悪の敵

ホラー

人類 vs 怪獣軍団の死闘

大石英司 / ノン・ノベル

 北海道で起きた謎の事故。その後、UFOに誘拐されたという女性の胎内を食い破って出現した謎の生物は、山中へ逃げた。やがて、その生物は増殖し、2mの巨体と驚異的な運動能力をもって、群れをなして人類を襲う。やがて世界各地で同様の事件が起き、その生物は「ゼウス」と命名された……。

 群をなす怪獣が北海道に出現……というわけで、思い出すのは「ガメラ2 レギオン襲来」。もっとも、ゼウスはレギオンみたいに巨大化するわけではない。そして何より、お子様向け怪獣映画では絶対に描写できない特性の持ち主だ。

 そう、ゼウスは女性を襲う。そして胎内で増殖するのだ。強姦超獣ゼウス、とか書いてしまうと「ウルトラマンA超獣大図鑑」のような趣きがあるが、下手するとウルトラセブン第12話の仲間入りだ。

 これを迎え撃つ人間側は、というと、主に北海道住民と自衛隊の活動を中心に描かれる。市長の座を狙っていた一市会議員が、たまたまリーダーシップを発揮して、町を要塞化してゼウスの侵入を防ぐことに成功したり、自衛隊の元レンジャーとその息子との関係が描かれたり。ただし、日本政府があまりに有能なのは少々リアリティを欠いていたように思う。まあ、十分デスペレートな状況なので、物語を根幹から損なうことはない。

 真っ先に連想したのは梅原克文。ジェットコースターのように進む物語、型通りの登場人物。とはいえ、それがあながち欠点とはいえない。「典型的」な人物が多いおかげで、物語は非常に分かりやすいものになっている。ただし、ゼウス出現の背景までもがかなり陳腐になってしまったことは否めないが。

 「怪獣もの」に好意的な人間ならば、それなりに楽しく読める怪獣パニック小説。