ようこそゲストさん

Bookstack

メッセージ欄

2003年1月の日記

一覧で表示する

予備知識

読書
書評を書いてる人間が言うことじゃないけれど、新刊本の情報って多すぎる、と感じることがある。どうかすると、本を読む前に内容があらかたわかっちゃう、なんてこともある。

最近(2003/01)残念だったのは、T・ジェファーソン・パーカー『サイレント・ジョー』。
たまたま、本になる前のゲラの段階で、この作品を読ませていただく機会があった。
この作品では、主人公がある属性を負っていて、それはしばらく読まないと明かされない。で、周囲の人が主人公に会ったときの微妙な態度の変化やら、それを受け入れている主人公の独白やらが妙に気になるのだ。これは作品のメインの謎でもなんでもないんだけど、こういう読者の引っ張り方はいいなあ、と思ったものだ。
そんなわけで、本になったのを見たときはちょっとがっかりした。主人公が負う属性の説明が、あっさり本のカバーに書かれていたのだ。
これじゃ、作者の工夫ってなんなんだろう、と思う。

逆に好感が持てるのは、スティーヴン・グリーンリーフ描く私立探偵マーシャル・タナーのシリーズ(実は上記『サイレント・ジョー』と同じ版元)。
実はこのシリーズ、「こんな終わり方で、もう次は出ないんじゃないか」と思わせるような終わり方をする作品がある。
この作品の訳者あとがきがすごーく思わせぶりなのですね。いつもなら「次の作品の冒頭はこんなふう」みたいなことが書いてあるのに。
もうショックのあまりamazonで続刊の有無を検索してしまいました。
『最終章』というシリーズのおしまいを想起させる題名の作品でも、これが本当にシリーズの終わりなのかどうかはネタばらし警報を発した後に書いてたくらい。
こういう気配りって、いいよね。

ついでに、予備知識なしに読むことができてよかった本をいくつか。
  • 山田風太郎『太陽黒点』 ……「びっくりする」とだけ教えられた。廣済堂文庫版は帯や裏表紙でいろんなことを暴露していて、作品の魅力を台無しにすることに全力を尽くすかのような本作りだった。
  • J・グレゴリイ・キイズ『錬金術師の魔砲』 ……上巻裏表紙を見て「こりゃ面白そう」と上下巻一気読み。
  • ジェレミー・ドロンフィールド『飛蝗の農場』 ……仕事として読むことになり、「どれどれ」と読むうちに引きずり込まれた。
  • スティーヴン・グリーンリーフの某作品 ……次巻の存在自体がある種のネタばらしになってる作品。
  • クライブ・カッスラー『マンハッタンを死守せよ』 ……マンハッタンを死守するのは最後の最後だったりする。
  • ジム・トンプスン『内なる殺人者』 ……「よく知らない犯罪小説家」が書いたものを読んでびっくりする、ってのがトンプスンとの最良の出会い方だと思う。「ノワールの帝王」御製の一品をかしこまって拝読するんじゃなくて、ね。

飛蝗の農場

ミステリ
ジェレミー・ドロンフィールド / 創元推理文庫

飛蝗の農場現在から過去へ向かう順序で、叙述の断片を並べている。で、ページが進む=過去にさかのぼるにつれて、物語の背景がだんだんはっきりしてくる。この構成は映画「メメント」に似てるかな。もっとも本書は、特殊な記憶障害を扱った作品ではないけど。

不安をかきたてる語り口(あるいは、不安をかきたてるような作中の齟齬)はなかなかよい。でも「サイコ・スリラー」って枠にくくってしまうのはどうなんだろう。狂気を描くというよりは、入り組んだ叙述によって読者を五里霧中に連れて行くような感じ。

(以下、2003/01/07追記)

「このミステリーがすごい!」で海外1位。そんなに万人受けする話なのかなあ。まあ、『グルーム』や『髑髏島の惨劇』がランクインするようなベスト10だから。

ちなみにこのページでは、内容やらその他についてあまり触れていない。ほかの本はいざ知らず、この本については、むやみに書くことで予断やら予備知識やらを提供してしまうのが怖いのですね。

この本を読むのに、予備知識は少ないに越したことはないです。農場で一人暮らししてる女性のところに、記憶喪失の男が転がり込んでくる話である、ってことだけ知っておけば十分。あとは、登場人物の台詞と、地の文での描写との齟齬に注意するのを忘れずに。

2003/01/07(火)

日常

英国地底魂

2年くらい前のミステリマガジンに書いた英国地底魂に関する原稿を発掘したので貼り付けてみる。

2003/01/06(月)

日常

初出勤

ノートPCが壊れたりいろいろあってあまり身動きできず。……というわりにはamazonに大量に注文を出してたりする。

午後から会社へ。ひとのPCトラブルを処理するうちに時間が過ぎる。

『紙葉の家』というすさまじく怪しげな小説を購入。読むのが楽しみ。

ISBN:4789719685

HMM年間回顧、難航。それなのに作品の予備知識について思ったことを書いてみたり。

モルグ街の殺人

ミステリ
 ミステリの起源、とされている作品である。
 年の初めだから、ってわけでもないが、なんとはなしにこれを手にとって読んでみた。

 いまどきのミステリに比べれば、おそろしくシンプルな物語である。探偵役のデュパンと語り手の暮らしぶりが紹介され、モルグ街で二人の女性が殺された事件が語られる。デュパンは一度現場を調べて真相を分析し、それを語り手に説いて聞かせる。被害者や証人たちの人物描写などほぼ皆無。デュパンだって単なる推理機械だ。

 むしろ、「おはなし」以外のところが興味深い。

 たとえば、冒頭での分析的知性に関する講釈。これを「いつも書いてる幻想小説とはちょっと違うぜ!」という熱意のあらわれ、と見るのはうがちすぎだろうか。

 あるいは、事件当夜に現場で聞かれた声に関する記述だ。ある証人は、声の抑揚からそれをスペイン語だと言い、また別の証人はイタリア語、あるいはドイツ語やロシア語や英語だと言い、さらにはフランス語だと言い出す外国人まであらわれる始末。大都会としてのパリと、そこに生じる「隣は何をする人ぞ」的なコミュニケーションの断絶を感じさせる。

 もうひとつは、この事件の犯人が関係しているので、ちょっと書きづらい。
 というわけで、「モルグ街の殺人」を読んだことのない方はここまで。

続きを読む