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デス・バイ・ハリウッド

ノワール
ASIN:4163236708スティーヴン・ボチコ / 文藝春秋

 「ハリウッド小説」という区分がある。小林信彦だったか中田耕治だったか、エッセイでそんな表現を用いていた。ここ1年少々の間(2004年~2005年)に訳されたものだと、
などなど。……で、この本も「ハリウッド小説」のひとつだ。

まるで「裏窓」の主人公のように殺人事件を目撃してしまったスランプ気味の脚本家を中心に、その離婚寸前の妻、殺人を犯した女優、事件を捜査する刑事らが織り成すサスペンス。ごくオーソドックスなつくりではあるけれど、語り口で読ませるタイプの小説だ。

語り手をつとめるのは、くだんの脚本家のエージェント。なぜかこの人、自分がその場に居合わせなかったできことを自分の一人称で詳しく語っているのだが、その事情は最後に明かされる。

登場人物がみんなそろって自己の欲望に忠実で、セックス描写もやたらとあけっぴろげだ。ポルノとまではいかないけれど、艶笑談めいた雰囲気は確かにある。

ジョークや小話をうまく配して、人物などの描写に役立てている。ある人物の葬儀のシーンで、遺族がスピーチでユダヤ人と浣腸に関するジョークを口にするあたりが象徴的だ。「犬が自分の考えた物語を飼い主に話して聞かせる」という話も、物語の流れを握る鍵として巧みに使われている。

作者は「刑事コロンボ」の脚本をはじめ、アメリカのTVドラマ制作では知らぬもののない大物。脚本を書いていた人の小説というと、地の文がト書きっぽくなってしまうという印象があるけれど、この小説は地の文も楽しい。

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無頼の掟

冒険小説
ASIN:4167661896 ジェイムズ・カルロス・ブレイク / 加賀山卓朗(訳) / 文春文庫

1920年代のルイジアナ。ソニーは危険と隣り合わせの暮らしに憧れ、叔父たちについて銀行強盗に。だが、初舞台で捕まってしまい、脱獄困難な刑務所に送り込まれる。しかも、数々の犯罪者たちを葬った伝説の鬼刑事が、ソニーを息子の仇として付け狙っていた……。

犯罪小説で、恋愛小説で、成長小説で、……と、いろいろな切り口で読むことのできる熱気あふれる小説。

主人公たちもさることながら、主人公を追う鬼刑事ボーンズの個性に圧倒される。登場ページ数は少ないにもかかわらず、この本で最も印象に残るキャラクターのひとりだ。この手の冒険活劇の敵役として、実にツボを押さえた装飾が施されている。

黒いスーツに身を包み、数々の悪漢たちを正当防衛に持ち込んで殺しながらも、一度も裁かれたことはない。最大の特徴は、ペンチだ。

彼はかつて犯罪者に撃たれて左手を失い、そこにペンチを取り付けている。フレディ・クルーガーのナイフ爪のようなものか。ただし、刃物ではなくペンチを選ぶところに、ボーンズの陰惨な暴力指向が垣間見える。主人公の行方を知ってそうな奴を捕まえては、ペンチを使って拷問する。この作品、陰惨な描写はそれほどない(あ、男なら思わず前を押さえて不安になる描写があった)のだけれど、こいつの登場シーンだけは陰惨だ。禍々しい雰囲気が漂う。

「手」という汎用的な道具を、用途の限られた道具に置き換えるというのは、キャラクターの性格付けとしては実に強力だ。特に、こういう活劇調の小説では。そういえば、特撮ものなんかも、敵味方問わず手を機械に置き換えたキャラクターがいろいろ登場していたように思う(最初に思い浮かんだのがライダーマンだったりするのがちと悲しい)。

……ペンチのことばかり書いてしまったが、読みどころは他にも多く、そのすべてを網羅するのは難しい(解説をまるごと読んでもらったほうが早い)。ラスト1行半の幕の引き方はあまりにも鮮やかで、深く息をつきながら読み終えた。

と言いつつやはりペンチのことが気になるのだが、あれはどういう仕組みで開閉しているんだろう。彼の左手は吹き飛ばされたはずなのに。これがサイバーパンクというものか(←違います)。

まあ、いろいろありますが、なにはともあれペンチ最強。

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