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『[読了]』 で検索

2006/10/11(水)

日常

[]毒杯の囀り / ポール・ドハティー

いたって端整な本格ミステリ。

ISBN:4488219020

14世紀のロンドン。貿易商が毒殺され、彼と言い争っていた執事が屋根裏で縊死していた。状況証拠は執事の犯行を指しているようだが……。酒好きで大食いの検死官ジョン・クランストン卿と、その書記に任命された修道士アセルスタンが事件の謎を追う。

ネロ・ウルフ&アーチー・グッドウィンをはじめとするコンビ探偵の系譜に連なる、修道士と検死官の二人組がたいへんよい味を出している。禁欲に生きる身でありながら、教区に住む未亡人を思って悶々としてしまう、まだまだ若いアセルスタンと、欲望に忠実に飲んだり喰ったりの、一見役立たずに見て実は老練なジョン卿。

特にジョン卿のご無体ぶりが素晴らしい。捜査が進展すると(あるいは壁にぶつかると)、アセルスタンを引き連れて居酒屋に飲みに行ってしまう。しかも酔っ払ったまま関係者に話を聞いたり、飲み過ぎて事件現場で寝てしまったり、自分の上司や同僚でなければたいへん好感の持てる人物である。抑えが効かずに飲み過ぎて吐いてしまうこともたびたび(300ページ程度の間に何度吐いているのやら)。とはいえ欲に負けてばかりではない。セックスのあとで、ふと事件の重要な手がかりに思い至り、あわてて服を着て飛び出していったりもするのだ。

巨漢と、頭の切れる青年といえばネロ・ウルフ&アーチー・グッドウィン。この二人とはだいぶ異なるキャラクターではあるけれど、同じく探偵コンビの行動で読ませるお話、という印象。

欲望の渦巻く猥雑な都会・ロンドンの描写もよい。いたるところに酒場があるように見えるのは、登場人物の行動のせいかもしれないが。

ちなみに、やたらと酒を飲んでやたらと食べるジョン卿の描写を読んでいて、ふと杉江松恋氏を思い出した。

2006/09/14(木)

日常

[][]ナイチンゲールの沈黙 / 海堂尊

『チーム・バチスタの栄光』に続く第2作。舞台は前作と同じ病院で、今度は小児科に関わる事件。

謎のつくりは、前作に比べるとずいぶん小粒。緻密だけど地味。ただし、病院というシステムを描きつつ、多彩なキャラクターを巧みに動かして、緊密なドラマを組み立てている。変人官僚・白鳥をも振り回す警察キャリアも登場し、前作で評価されたキャラクター小説としての面が強調されている。

面白く読める作品だけど、今後はもっと謎解き自体の力でひっぱるものも読みたいところ。それにしても、ある意味『マクロス』みたいな話だった。タイトルのダブルミーニングは秀逸。

2006/09/12(火)

日常

[]ルーシー・デズモンド / 松尾清貴

ISBN:4093861617

うわあ、なんだこれは。

まっとうに事件が起きて、そいつがちゃんと解決されて、その過程で意外な展開にどきどきしたりびっくりしたり、というのをお望みの方にはおすすめしない。

日本神話の研究だとかポール・マッカートニー死亡説だとかフェティシズムとか、さらには唐突に描かれる(本当に唐突だ)女刑事の生い立ちだとかをちらつかされながら、五里霧中の物語をひきずりまわされて、ラストシーンに強行着陸。今もまだ少し困惑している。

楽しかったですよ、ええ。

1: あまの 『初めて書きます。宝島社の「このミステリーがすごい大賞」を見たものです。古山先生が一次選考で選んだ作品がすべて二次選考も通過された...』 (2006/09/13 11:25)

2006/09/06(水)

日常

[]聖戦の獅子 / トム・クランシー&スティーヴ・ピチェニック

オプ・センターシリーズの第九作。もともとクランシーの看板を頼りにして始まったシリーズだけど、今ではこっちのほうがクランシー単独名義のものよりも面白い。丁寧な仕事で読ませる作品だ。

ISBN:4102472355

ISBN:4102472363

舞台はボツワナ。カトリック神父が武装集団に誘拐される。彼らの要求はキリスト教聖職者の国外退去。窮地に立たされたヴァチカンは、アメリカの国家危機管理センター、通称オプ・センターに助けを求める……という物語。

作中のヴァチカンは、予想外の事態に備えて、いざというときにスペインから軍事面での援助を受ける協定を結んでいる。そんなわけで、本書にはスペイン軍特殊部隊が登場する。

そのことには何の問題もないのだが、まさかの時に法王のために戦うスペイン人というと、どうしてもモンティ・パイソンの「スペイン宗教裁判」を思い出してしまうのだ。

もちろん、本書のスペイン軍特殊部隊は赤い服など着ていない(はずだ)し、おばあちゃんにクッションを押し当てたりもしない(はずだ)。武器だってちゃんと数えられる(はずだ)。

1: ♪akira 『ですよね!私もスペイン宗教裁判と聞くと絶対にこれ思い出します。(笑)あと、イギリスのNavyというと、あの歌と、水で充満している...』 (2006/09/07 9:49)

2: 膳所善造 『Nobudy expext Spanish Inquisition!!ですか。当然、制服はNice Red Costumeなんだ...』 (2006/09/07 12:15)

3: ふるやま 『♪akiraさん:そういえば、英国海軍といえばカニバリズムを連想するように刷り込まれてしまったので、帆船もので食事の場面を読むと...』 (2006/09/08 7:14)

2006/08/28(月)

日常

[]数学的にありえない / アダム・ファウアー

追っ手から逃れる主人公は、自分でもわけの分からないまま、なぜか線路にポテトチップをばらまく。その後の思わぬ展開に息をのんだ。

個々の素材は、どこかで見たようなものばかり。でも、それらを組み合わせると、見たことのない光景が見えてくる。

ISBN:4163253106

ISBN:4163253203

第一部は「偶発的事件の犠牲者たち」。偶然によって大きく運命が変わってしまった登場人物たちが描かれる。

  • ケインは驚異の暗算能力を誇る数学者。ただし今はギャンブル狂い。ポーカーで大勝負に出たところ、確率的にありえない相手の手に敗れてロシアン・マフィアに多額の借金を負ってしまう……。
  • 外国に機密情報を横流ししていた諜報部員。信じがたい手違いのため、彼女は北朝鮮の工作員によって窮地に追い込まれる……。
  • 政府の研究機関。インサイダー取引で私腹を肥やしていた男は、突然立場が危うくなる。彼が弱みを握っていた上院議員が、突然に死亡したのだ……。
  • ずっと同じ番号でくじを買い続けてきた男。彼は、その日とうとう大当たりを引き当てた……。

……といった登場人物たちの運命が交錯し、やがてケインは秘密の研究をめぐる陰謀に巻き込まれ、強大な敵に追われることになる。

これだけだったら、よくあるサスペンス。だが、「秘密の研究」がサスペンスの演出にも影響を与えているのがこの作品のユニークなところ。「秘密の研究」と関わったケインは、ある特殊な認知能力を身につけて、他人とはちょっと違った仕組みで世界を認識できるようになる。

この特殊能力が物語の鍵。このおかげで、ケインの行動パターンは、通常のサスペンスの主人公とはずいぶん変わったものになっている。さらには、通常では伏線にならないような要素までが、意外な伏線として作用する。

追跡劇の盛り上げ方と、根底に流れる前向きな姿勢はディーン・クーンツといったところ。ケインが新たな世界認識を得る様子はグレッグ・イーガン風味。そして、全編をささえる論理のアクロバットは、さしずめエラリイ・クイーン。

味わったことのない興奮を味わえる。

  • アインシュタイン・セオリー Bookstack 古山裕樹
    マーク・アルパート(著), 横山 啓明 (翻訳) 科学史家デイヴィッドの恩師が何者かに襲撃され、謎めいた番号を言い残して死んでしまった。FBIはなぜかデイヴィッドを捕らえて尋問する。このときから、デイヴィッドは強大な破壊力を実現する物理理論の争奪戦に巻き...