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バカなヤツらは皆殺し

ノワール

タフな小娘、大暴走!

バカなヤツらは皆殺しヴィルジニ・デパント / 稲松三千野 / 原書房

 「キレやすい若者」という話題は最近流行りだが、本書でもキレやすい若者が大暴れする。

 ポルノビデオとマリファナまみれの日々を送るナディーヌ、「好きなものはセックスとウイスキー」と言い切るマニュ。この二人の少女がふとしたところから殺人事件の当事者になってしまうところから、物語は一気に転がり出す。

 ピンクと黄色の表紙からは想像もつかない「キレた」世界が描かれる。性描写にしても暴力描写にしても、今どきの基準ではもはや「過激」というほどのものではないかもしれない。しかし作中での性と暴力の位置づけは、たしかにある一線を踏み越えてしまっている(あるいはそう考えてしまうこと自体、私がもはや若者ではないことの証明かもしれない)。

 パンキッシュに爆走する二人の物語は、やがて過酷で痛切なクライマックスを迎える。

 この作品が志向しているのはロマン・ノワール、暗い情熱と暴力に彩られた物語だ。

 作中、何人かの作家の名前が言及される。特に重要と思えるのは(主人公の二人がシンパシーを抱きそうなのは)二人。

 ひとりは、飲んだくれ不良オヤジの視点から見た世界を描き続けたチャールズ・ブコウスキー。

 もうひとりは、パラノイアックな文体でアメリカの「暗黒」を描くジェイムズ・エルロイ(映画『LAコンフィデンシャル』原作者、というほうが有名だろうか)。

 特にエルロイの名前は、後半のかなり重要な場面で意味ありげに用いられる(ちなみにこの場面、ミステリに限らず小説、映画、音楽などの愛好者の多くにはかなりきつい一撃を食らわしている)。もっとも、作品そのものからうかがえるのは、エルロイの影響よりも、フランスで彼をいちはやく絶賛したというジャン・パトリック・マンシェットの影響なのだが。

 ロマン・ノワールは直訳すれば「暗黒小説」、実際その描く世界は決して明るいものではない。とはいえ、これらの小説は決して重苦しいだけではない。映画『LAコンフィデンシャル』をごらんになった方なら分かるかもしれないが、時にユーモアを感じさせる物語には、どこか軽妙さが漂っている。そして、それは本書も同じだ(ちなみに、エルロイへのシンパシーをことある毎に表明してやまない馳星周の作品にもっとも欠けているのが、こうした軽妙さだと思う)。

 書店では「ミステリ」として売られているわけではない。新宿南口の紀伊国屋で見かけたときは、ウィリアム・バロウズやキャシー・アッカーの本と一緒に並んでいた。どこの棚に並んでいようと、最近一部で目にする「ノワール」と呼ばれる小説に興味のある向きにはおすすめの、そしてノワール愛好者にとっては必読の一冊だ。

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