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2006年6月の日記

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2006/06/03(土)

日常

[]カレンの眠る日 / アマンダ・エア・ウォード

ISBN:4102159517

三人の主人公の運命。その三本の流れが一本に合流する後半の盛り上がりは圧巻。三人の中でひとりだけ一人称文体で書かれているのも、読み終えてみれば納得(アレを三人称でやってくれれば……と思うところもあるのだが)。ミステリとは性質の異なる物語だが、よくできた小説である。読書好きでよかったと思えるのは、こういうものを読んだときだ。

ちなみに、死刑囚のカレンは獄中で『百年の孤独』を読んでいる。この本の使い方もけっこうイイです。

[]ベータ2のバラッド / 若島正・編

ISBN:4336047391

プリティ・マギー・マネーアイズ / ハーラン・エリスン

ラスヴェガス。最後の1ドルをスロットマシーンに放り込み、レバーを引いた男の運命は……? 孤独な男と孤独な女が思いもよらない形で出会うさまを、熱狂を煽りたてる文体で語る。花火のように鮮やかな、かっこいいギャンブル小説。

ハートフォード手稿 / リチャード・カウパー

H・G・ウェルズと親交のあった大叔母が「私」に遺した本には、信じがたい内容の手稿が挿まれていた……。語り手に手稿を遺すヴィクトリア叔母さんは最初の数ページに登場するだけだが、その人物像はしっかり心に残る。丁寧に書かれた文章の技。

そんなわけで綺麗にまとまった一品である。でも、どうしてこのアンソロジーに……? と編者あとがきを見れば、

それはカウパーに対する個人的な思い入れがあるからで、それについては拙著『乱視読者の新冒険』(研究社)に書いたことがあるからここには繰り返さない。

だそうだ。そんなわけで『乱視読者の新冒険』を読み返す。末尾に収められた「リチャード・カウパーのために」……そう、思い出した。読書好きにとってはきわめて強烈な経験が綴られた文章である。これを読むと、思い入れでカウパーを載せてしまうのも仕方ない、と思う(私自身は、この文章に書かれているような「すべてがパターンの中にはまり込むという感覚」を経験したことがない)。

ちなみに編者あとがきにはもう一つの理由として、ニュー・ウェーヴを英国SFの伝統の延長に位置づけようとする考えが述べられている。が、少なくとも私にとっては最初の理由で十分だ。編者の嗜好がもたらす偏りもまた、アンソロジーの魅力なのだから。

時の探検家たち / H・G・ウェルズ

「ハートフォード草稿」に関連して収録された、『タイムマシン』の原型になったという短編。もっとも、時間旅行というアイデア以外は全くの別物である。小さな村に引っ越してきた異貌の男。彼の住む館の周囲では奇妙な現象が……という前半はまるで怪奇小説(私はラヴクラフトの「チャールズ・デクスター・ウォードの奇怪な事件」を連想した)。いよいよこれから、というところで終わってしまうのが非常にもどかしい。

[]乱視読者の新冒険 / 若島正

ISBN:4327376922

かくして脱線中。

2006/06/02(金)

日常

[]カレンの眠る日 / アマンダ・エア・ウォード

ISBN:4102159517

中盤。3人の主人公のうち、死刑囚以外のふたりの日常には変化が訪れる。

3人それぞれの日常が順番に語られる形をとっているのだが、悲哀が最もストレートに描かれているのは死刑囚でもなければ夫を殺された女性のパートでもなく、人を殺したり身内を殺されたりという経験のない医師のパートだったりする。

特に夫を殺された女性の語り口(彼女のパートだけ一人称である)はユーモアを前面に押し出している。『暴徒裁判』の解説に書いたような、悲哀に裏打ちされた明るさを感じた。

[]The Man from the Diogenes Club / Kim Newman

ISBN:1932265171

舞台は1960~70年代の英国。主人公は秘密機関ディオゲネス・クラブのエージェント……だが、彼が挑むのは超自然現象が絡んだ事件であるらしい。カーナッキやジョン・サイレンスといったオカルト探偵もののアンソロジーをきっかけに書かれたようだ。

キム・ニューマンの作品だけに、固有名詞には要注意。何を紛れ込ませてるか分かったもんじゃない。なお、この本での英国は、別に吸血鬼に支配されているわけではなさそう。

[] 1 / ??

今回はいつになく本数が多いらしい(最終的な本数は未確定)。そんなわけで原稿読み開始。

2006/06/01(木)

日常

[][]文章探偵 / 草上仁

ISBN:4152087293

左創作は、小説講座の講師を務める中堅ミステリ作家。講座の場では、文章からその作者の性別や年齢、職業などを突き止める芸当を披露する……と、文章をプロファイルする探偵が登場する本格ミステリらしい。

冒頭から、さっそく文章プロファイルの様子が紹介される。シャーロック・ホームズが依頼人のことをあれこれ言い当てるような感じですね。

[]ベータ2のバラッド / 若島正・編

ISBN:4336047391

ベータ2のバラッド / サミュエル・R・ディレイニー

銀河人類学を学ぶジョナニーは、失われた星間移民船について調査することになった。船に伝わる歌には、その秘密が隠されていた……

ディレイニーにしては極めてシンプルな話で、筋運びも直線的。謎解きの要素も、過去の記録を掘り返すことで片づいてしまう。厚みのもたらす華麗さには欠けるものの、「物語を伝えること」に対するストレートな喜びが漂うところに魅力を感じた。

四色問題 / バリントン・J・ベイリー

バロウズ風味(ウィリアムのほう)の実験小説。最初から飛ばしてます。

一九九〇年に着手された地図作製用の衛星測量で、地球にはそれまで探検家や地図作成者が見逃してきた未発見の地表面がかなりあることがあきらかになった。

もっと前に気づかないのか……。

どんな地図でも、隣り合った領域の色が重ならないように塗り分けるには四色あればよい──という、当時未解決だった数学上の難問をネタに展開する。なんだかサンリオSF文庫の裏表紙を読んでるような感じ。

降誕祭前夜 / キース・ロバーツ

ナチズムが支配する英国を舞台に描く、重厚なサスペンス。『SS-GB』とか『英国占領』などと同じ系統の作品だ。それらより遙かに短いものの、「ナチズムのある日常」がじっくりと描かれている(ドイツ語の多用に頼っているところもあるけれど)。

伝統的な小説としての読み応えは、今のところこの作品がベスト。もっとも、そういう観点で前の2編と比べることにあまり意味があるとは思えない。