▼ 愛
【小説】
ウラジーミル・ソローキン / 亀山郁夫訳 / 国書刊行会
昔のロシア文学によく描かれる、帝政ロシア時代の田舎の田園風景。それが一瞬にしてスプラッタ風の殺戮劇場と化す……。長編『ロマン』で一部に衝撃を与えた現代ロシアの異端作家、ソローキンの短篇集。
表題作は、老人が若い頃の恋愛を回顧して話しているところから始まる。が、肝心の恋愛話が始まったとたん、すべてが「………………」で覆いつくされてしまう。1ページくらい「…………」が続いたその後は、いきなりバイオレントなクライマックスが待ち受けているのだ。
……いやあ、これはすごい。言葉を使って組み立てられた爆弾、といったところか。豊饒な物語の可能性を孕んだストーリーが、いきなりねじ曲げられ、汚穢と暴力に満ちた世界へと変貌する。
破壊衝動の描き方としては、映画にもなった『ファイト・クラブ』みたいに、登場人物の行為をどんどんエスカレートさせるという手があるが、この短編集もそれに近い。
が、本書で破壊されるのは物語だけではない。時には物語を綴る言語そのものまで破壊されてしまう。計算したうえでキレている。
読者の存在を意識することなく、作者の気の向くままに綴られる文章だが、その壊れ具合は実に楽しい。
昔のロシア文学によく描かれる、帝政ロシア時代の田舎の田園風景。それが一瞬にしてスプラッタ風の殺戮劇場と化す……。長編『ロマン』で一部に衝撃を与えた現代ロシアの異端作家、ソローキンの短篇集。
表題作は、老人が若い頃の恋愛を回顧して話しているところから始まる。が、肝心の恋愛話が始まったとたん、すべてが「………………」で覆いつくされてしまう。1ページくらい「…………」が続いたその後は、いきなりバイオレントなクライマックスが待ち受けているのだ。
……いやあ、これはすごい。言葉を使って組み立てられた爆弾、といったところか。豊饒な物語の可能性を孕んだストーリーが、いきなりねじ曲げられ、汚穢と暴力に満ちた世界へと変貌する。
破壊衝動の描き方としては、映画にもなった『ファイト・クラブ』みたいに、登場人物の行為をどんどんエスカレートさせるという手があるが、この短編集もそれに近い。
が、本書で破壊されるのは物語だけではない。時には物語を綴る言語そのものまで破壊されてしまう。計算したうえでキレている。
読者の存在を意識することなく、作者の気の向くままに綴られる文章だが、その壊れ具合は実に楽しい。
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▼ ポップコーン
【ノワール】
ベン・エルトン / 上田公子訳 / 早川書房(→ミステリアス・プレス文庫)
暴力的な映画で物議をかもすブルース・デラミトリ監督がオスカーを手にした夜。美人モデルを連れて帰宅した彼を待っていたのは、彼の映画からそのまま出て来たような、逃走中の無差別殺人カップルだった。ブルースたちを人質に取った彼らは、警察とマスコミに意外な要求を突き付ける……。
ハリウッドが舞台だが、作者はイギリス人である。デラミトリ監督のモデルは、もちろんタランティーノ。全編をおおうブラックなジョーク、そして皮肉な展開を読んでいると、確かに「アメリカ的」というよりは「イギリス的」という気がする。イギリスというと、ついつい「モンティ・パイソン」なんぞを思い浮かべてしまうせいだろうか。
スピーディな展開につられて、すいすい読めてしまうが、実は重いテーマを扱っていたりする。
ひとつは、映画などの創作に影響されて犯罪が起きることがあるのか、というもの。日本でも、凶悪犯罪が起きると、TVドラマの暴力描写やらホラー映画なんかをやり玉に挙げたがる人がいるけれど、それと同じだ。
もっとも、あれは暴力犯罪を犯す人間が暴力描写を好む傾向が強いということであって、因果関係のとらえ方が逆ではないかと思うのだけれど。
そして、もう一つのテーマが「責任」だ。「社会が悪い」「病気だから」などなど、何かしら自分以外のものに責任を転嫁したがる姿勢。ま、日本でも流行ってますね。そういう意味では、この本の結末はきわめて皮肉だ。
が、とても真剣に受け止める気になれないような書き方をしているあたりに、この作者のイギリス的なひねくれ具合を感じる。
なにしろ作者がこのテーマを浮かび上がらせれば浮かび上がらせるほど、「だったらおまえはどーなんだよ」と読者がツッコミたくなるような構造になっているのだから。
暴力的な映画で物議をかもすブルース・デラミトリ監督がオスカーを手にした夜。美人モデルを連れて帰宅した彼を待っていたのは、彼の映画からそのまま出て来たような、逃走中の無差別殺人カップルだった。ブルースたちを人質に取った彼らは、警察とマスコミに意外な要求を突き付ける……。
ハリウッドが舞台だが、作者はイギリス人である。デラミトリ監督のモデルは、もちろんタランティーノ。全編をおおうブラックなジョーク、そして皮肉な展開を読んでいると、確かに「アメリカ的」というよりは「イギリス的」という気がする。イギリスというと、ついつい「モンティ・パイソン」なんぞを思い浮かべてしまうせいだろうか。
スピーディな展開につられて、すいすい読めてしまうが、実は重いテーマを扱っていたりする。
ひとつは、映画などの創作に影響されて犯罪が起きることがあるのか、というもの。日本でも、凶悪犯罪が起きると、TVドラマの暴力描写やらホラー映画なんかをやり玉に挙げたがる人がいるけれど、それと同じだ。
もっとも、あれは暴力犯罪を犯す人間が暴力描写を好む傾向が強いということであって、因果関係のとらえ方が逆ではないかと思うのだけれど。
そして、もう一つのテーマが「責任」だ。「社会が悪い」「病気だから」などなど、何かしら自分以外のものに責任を転嫁したがる姿勢。ま、日本でも流行ってますね。そういう意味では、この本の結末はきわめて皮肉だ。
が、とても真剣に受け止める気になれないような書き方をしているあたりに、この作者のイギリス的なひねくれ具合を感じる。
なにしろ作者がこのテーマを浮かび上がらせれば浮かび上がらせるほど、「だったらおまえはどーなんだよ」と読者がツッコミたくなるような構造になっているのだから。
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