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そしてぼくはママの愛人になった

小説
そしてぼくはママの愛人になった ファビエンヌ・ベルトー / 稲松三千野 / 原書房

 なかなか強烈な題名である。原題はこんな意味ではないのだけれど。『バカなヤツらは皆殺し(原題は英訳すると"fuck me"!)』もそうだったが、このシリーズ(現代フランス小説新世代)の邦題はなかなか気が利いている。

 念のためことわっておくが、母子近親相姦ポルノではない。

 少年の12歳の誕生日、目の前でママがパパを殺した……というところから始まる、少年とその母親の物語。こう書くとなんだか重苦しい雰囲気を予感するかもしれない。

 ところが。

 どんどんろくでもない方へと転がってゆくストーリーそのものは確かに痛々しい。だが、それを綴る文体は軽妙、そしてどこか爽快感が漂う。

 というのも、この作品はひとりの少年の成長を描く物語でもあるからだ。幼くして世間のさまざまな面を見ることになった彼は、涙を流すことはまったくない。とはいえ、今日びの12歳はこんなに無邪気じゃないだろ、とツッコミたくなるような一面も見せる。そんな彼が、さまざまなできごとに遭遇しながら、少しずつ変わってゆく。その変化は、健全な社会からすれば「成長」とは呼びがたいものかもしれないが、しかし彼の世界においてはまぎれもない「成長」である。

 そう、彼の成長のかたちが世間と相容れないものであるからこそ、この小説は悲痛なのだ。

 そして、とにかく記憶に残るのは母親の人物像。『バカなヤツらは皆殺し』の少女たちもそうだったけど、世間の荒波から身を守るどころか、世間に自分をむき出しにして生きている。息子が母を守ろうとすればするほど、事態はますます悲惨な方向に転がってゆく。

 そういえば、『永遠の仔』の3人の誰かの母親にもこんなところがあったけど、『永遠の仔』の母がストーリーを進めるための「機能」に過ぎないのに対し、こちらの母はストーリーの原動力そのものだ。

 そんなわけで、テイストはどこか『バカなヤツらは皆殺し』に通じるものがある(あんなに人は死なないけど)。最近のフランスではこういうのが流行りなのだろうか。それとも訳者の趣味だろうか?

 このシリーズ、今後も目が離せない。

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