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謀殺の弾丸特急

冒険小説
謀殺の弾丸特急 / 山田正紀 / 徳間文庫

 東南アジアの小国・アンダカムでは、日本製のSLが今でも使われている。
 日本人旅行客たちが乗り込んだSLは、隣国タイに向けて出発。ところが、一行の中に軍事政権の秘密をスクープしてしまったジャーナリストがいたため、彼らは最新装備に身を固めたアンダカム軍に追われる羽目に……。

 よけいなことは何も考えずに楽しめる、スピーディな冒険活劇。

 一行はジャーナリストのほか、添乗員の女性、元機関士、旅好きの老婆、能天気な新婚カップル、無職の三〇男に鉄道模型マニアの大学生。こんな普通の日本人たちが、歴戦の軍人たちを相手に戦うのだ。彼らの乗り物は、線路に沿ってしか動けない鉄道(しかも、機関車は戦前の日本で作られた古いしろものだ)。これに、四方八方から、最新兵器に身を固めた軍隊が襲いかかる。

 圧倒的に有利な敵に立ち向かう、劣勢な主人公たち。この手の冒険ものでは、あまたの名作で手を替え品を替え使われているシチュエーションだ。山田正紀自身も『火神を盗め』で、インドを舞台に、CIAの殺し屋集団に挑む窓際サラリーマンたちの死闘を描いている。

 登場人物を含む小道具の使い方がとにかく上手い(特に、添乗員の女性の指輪に注目)。一行のひとりひとりに、それぞれの役割と見せ場が用意され(つまり頭数をそろえるためだけのキャラクターはいない)、巧妙な伏線とともに用意された数々の小道具が、しかるべきところでしかるべく使われる。ジグソーパズルのピースが、それぞれの場所にぴたりとおさまるように。それは、精緻に組み立てられた謎解きミステリにも通じる楽しさだ。

 そんなわけで、本書を絶賛し、文庫化のきっかけを作ったのも、……現代日本で有数の巧緻なパズルの作り手である有栖川有栖なのだ。

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